COLUMN

山崎亮の「つながりのデザイン。」

#4 地域で出会った人々 —起業した人たちー

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コミュニティデザインに取り込み始めた当初、仕事の依頼はほとんどなかった。当然といえば当然だ。どんな仕事なのかも知られていないし、どんな効果が得られるのかも説明しにくいのだから。やるべきだと思うのに、依頼してくれる人がいない。それなら、勝手に地域へ出向いてプロジェクトを生みだしてみよう。そう思って選んだのが兵庫県姫路市の沖合にある家島という離島である。

島を歩き回り、地域の人々の話を聞き、自分たちに何ができるのかを考えた。そのうち、島の行政組織からワークショップを依頼されたり、会議に出るよう促されたりした。そこで知り合ったおばちゃんたちとともに、数年に渡る自主的なワークショップを主宰したこともある。

よそ者である我々を受け入れ、ワークショップに協力してくれたおばちゃんたちは、その後NPO法人を設立することになる。福祉タクシーを走らせたり、島の広報誌を印刷したりという公益事業に取り組むための法人だ。その財源をつくるために、漁師などから仕入れた魚介類を加工して新たな商品を開発した。海苔の佃煮やアナゴの一夜干しなど、NPOが販売する商品は約10種類。販売利益が出たら、それを公益活動の資金にしている。
一応、彼女たちは起業したことになる。しかし必死に働くのは嫌なのだという。メンバーが集まって、いろいろな話をしながら、楽しい時間を過ごすことができる範囲で商品をつくりたい。だから大量の注文が来ると不機嫌になる。あるいはそれを断ろうとする。「別に金儲けがしたいわけじゃないからね」というのが彼女たちの口癖だ。 

漁業と採石業が主幹産業だった家島に、市民参加で小さな観光業を生みだそうとしたこともある。我々が主催した観光ワークショップに参加してくれた若い男性は、終了後に「いえしまコンシェルジュ」を名乗るようになった。地元の人しか知らないような場所を案内するガイドツアーを実施したり、お勧めの宿や食事を紹介してくれたりする。今では彼も結婚し、3階建の住宅を購入し、自宅の一部をゲストハウスにしている。

同じワークショップに参加していた女性は、家島の対岸にある姫路市でゲストハウスを開業した。こちらも古い建物を自分で改装し、世界中から来るお客さんに姫路市の面白い場所を紹介している。そのなかに家島も含まれていて、必要であれば「いえしまコンシェルジュ」につなぐこともできる。世界遺産になった姫路城のお膝元と家島とがつながっているのだ。実に頼もしい。

彼らはいずれも起業したわけだが、気持ちよく働くことができるという点を重視しているようにみえる。やっていて楽しくて、少しだけ地域のためになっていると思えて、生活に必要な貨幣や物品や食材が手に入るような仕事。仕事が増えて、忙しくなりすぎて、やっていることが楽しく感じられなくなることを巧妙に避ける。
家島だけではない。新潟県十日町市、広島県福山市、大分県大分市など、ワークショップ参加者が起業する例は枚挙にいとまがない。ただし、コミュニティデザインの現場から生まれる仕事の多くは、「自分が楽しくて、地域の役に立っていて、家族が食べていけるような仕事」であることが多い。

当時に比べて、今ではコミュニティデザインの仕事を依頼される機会も増えた。しかし大切にしていることは彼らと同じだ。我々もまた、やっていて楽しくて、少しだけ地域の役に立っていて、何とか食べていけるような仕事を続けていきたいと思っている。

PROFILE

山崎亮

1973年生まれ、愛知県出身。コミュニティデザイナー。studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。 大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『ふるさとを元気にする仕事(ちくまプリマー新書)』、『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』など。

    WRITER

    BAUS / BAUS編集部

    クリエイティブと社会の関係性において、 関わる全ての人々にとっての 「次」と「続き」を作る、そんなプラットフォームを BAUSは目指しています。

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