COLUMN

『でも、ふりかえれば甘ったるく』をふりかえれば甘ったるく? ーmao nakazawa

#2 物語のはじまり

記事メイン画像

2018年3月、カメラマン・芸術家・ライター・編集・浪人生など、さまざまなバックボーンをもつ女性10名によるエッセイ・随筆集『でも、ふりかえれば甘ったるく』が、CGプロダクション「シネボーイ」の出版レーベル「PAPER PAPER」から発売された。20代を中心とする著者9名とイラストレーター1名が、それぞれの「幸せ」について自分らしく想いを綴る。彼女たちのこれまでとこれからに紡ぎ出される、それぞれかたちも大きさも肌触りもちがう「幸せ」。読んだらきっと、自らの日常にある小さな「幸せ」に気づいてにこやかになる、そんな1冊だ。

今回BAUSでは、『でも、ふりかえれば甘ったるく』のスピンアウト企画として、著者や制作関係者、ゲストを迎え、リレーコラムをお届けする。 [Sponsored by シネボーイ]


どんな物語にも、はじまりがある。

 

2018年春、土曜日の朝に『でも、ふりかえれば甘ったるく』は届いた。急いで封を切ると、eryさんの可愛らしい絵が出てきて興奮。本の裏表紙には夜を運転している女の子。タクシーで泣きながら帰った日を思い出す。起きたばかりの私は、ぐしゃぐしゃの寝癖、ダサい寝間着のまま、玄関でしばらく眺めていた。

2016年の夏から冬、私はドン底だった。一人きりになると途端に崩れ落ち、夜は毎日泣いていた。ベッドの上に横になって、真っ暗な部屋で泣きながら満月を眺めたりなんかして。ニュートラルな気分に戻りたい、でもどうしたって、戻れない。ふさぎ込んでしまった私に、時間が解決すると、友人が言った。夜はとても長かったが、それでも少しずつ、朝に向かっていた。

note 「西神田交差点」より

2016年の年末、私は西小山「小さかった女」で写真展を開催した。初日は親しい友人たちを呼んで、ささやかなパーティー。そこに“彼”も遊びに来てくれた。私は写真展を開催するにあたり、必ずステートメント(解説)を付ける。それを小さく印刷して、みんなに配るのが恒例だ。家庭のある“彼”は、ステートメントをお土産に先に帰っていった。私は独り身の友人たちと、今日が明日に変わるまで、コーヒーを飲んで楽しんでいた。

2017年春、写真展に来てくれた“彼”が、出版レーベルを始めたという噂を聞きつけた私は、渋谷の大衆居酒屋に呼び出した。なぜなら私は写真集を出版したいと考え始めていたから。私の撮った写真を大勢に見てほしいと考えたとき、写真集を出版したら手っ取り早いな、と思いつく。だから私は単刀直入に、写真集を出したいと“彼”に申し出た。

note 「サクセス・ストーリー・de・やまがた」より

ビールを飲みながら“彼”は言う。「あなたの写真、良いかどうか正直わからないけれど、文章は良いと思う。だから写真と文章セットでやっていったらいいんじゃないかな?」そして、noteを始めることを勧められた。

「この子、こんなに文章書けるのに、なんで写真の仕事してるの?」このセリフは“彼”奥さんが、私のステートメントを読んで言ったものだ。複雑な心境だが、文章が武器になることに気付き、自信となった。何でも配っておくものだ。

 

私はnoteを書き始めた。2017年3月9日だった。

note 「新しいノート」より

それを皮切りに2017年は、とにかく写真を撮り、文章を書きまくる。これまでの私から見れば、更新頻度は完全にオーバーペースだった。私がくじけそうな時、“彼”は呪文のような名言を私に放つ。

「飲み会は断るな、呼ばれたら全部行け。」
「実りのない夜を越えろ。」
「考えるな。書け。」

すべてが繋がると信じて、私は一人でどこにでも行き、実りのない夜を何度も乗り越え、考えずに書き続けた。満月だろうか新月だろうが、私は帰ったら倒れるように寝ていた。全ての事象が少しずつ、関係を結んでいく。関係が結ばれたとき、それらは新しい展開を迎える。

note「私になっていく」より

2017年9月12日、渋谷の、あの大衆居酒屋で、私は“彼”から出版の話をもらう。そこには、渡邊ひろ子さんも居た。七夕の短冊にまで書いた願い事が、チャンスとなって巡ってきた。私は二つ返事で引き受けたが、ひろ子さんは迷っていた。むしろ、全く乗り気でなかった。そんな彼女に、やりなよ!と、私は背中を押す。

2018年3月、私はベッドに横になり、「夜の散歩から」を読んでいる。ひろ子さんの書いた文章は、元彼と一緒に、恵比寿の街を歩いて帰った日を思い出す。それは埃の被った思い出、もう何冊も前のノートのようだ。読み終えて本を閉じ、棚に並べた。

ページに余白がなくなったら、次のページに進めば良い。ノートがいっぱいになったら、新しいノートを開けば良い。とにかく記録を残しておけば、未来の貴重な財産となる。

 

どんな物語にも、はじまりがある。私たちは毎日、新しいページに進んでいる。
この話、ロマンティックになったかしら、“西川タイジ”さん。

PROFILE

『でも、ふりかえれば甘ったるく』

カメラマン、芸術家、ライター、編集、浪人生等様々なバックボーンを持つ女性10名のみで制作したオムニバス集。悩みながら、もがきながら、噛み締めながら「今」を生きる。女性9人が自分らしく想いを綴る、それぞれの「幸せ」とは。彼女たちの「これまで」と「これから」をまとめたエッセイ・随筆集。
全国の書店、各種通販サイトにて発売中。

【目次(著者 / タイトル)】
01. 伊藤 紺 / ファミレスのボタン長押しするように甘く
02. 生湯葉 シホ / 永遠には続かない
03. こいぬま めぐみ / 検索結果は見つかりませんでした
04. いつか 床子 / 幸せでない話
05. mao nakazawa / 私の庭
06. 菅原 沙妃 / ここにいていいよ
07. 西平 麻依 / 大人になるのは、きっとそれから
08. 渡邉 ひろ子 / 夜の散歩から
09. エヒラ ナナエ / 愛すべき孤独に
10. ery / カバーデザイン

【Credit】
発行元:株式会社シネボーイ / PAPER PAPER
発売元:日販アイ・ピー・エス株式会社

Produce:西川 タイジ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)
Book Design:近成 カズキ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)

http://www.cine-boy.com/?product_cat=book
http://amzn.asia/iytxasX

    PROFILE

    mao nakazawa

    カメラマン
    1988年東京都出身・在住。2018年5月末で集英社専属カメラマン契約を満期終了予定、2018年6月より独立。ライフワークは東京の記録としての写真。フィルム写真とともにブログ「record of tokyo」を日々更新中。

    http://www.cameranakazawa.com
    https://note.mu/maotokyo

    PROFILE photo by 山口真由子


    トップ挿絵・エヒラナナエ 文/写真・mao nakazawa 編集・上野なつみ

    関連記事

    関連記事