COLUMN

『でも、ふりかえれば甘ったるく』をふりかえれば甘ったるく? — NINE STORIES かとうさおり

#8 IN BETWEEN DAYS

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2018年3月、カメラマン・芸術家・ライター・編集・浪人生など、さまざまなバックボーンをもつ女性10名によるエッセイ・随筆集『でも、ふりかえれば甘ったるく』が、CGプロダクション「シネボーイ」の出版レーベル「PAPER PAPER」から発売された。20代を中心とする著者9名とイラストレーター1名が、それぞれの「幸せ」について自分らしく想いを綴る。彼女たちのこれまでとこれからに紡ぎ出される、それぞれかたちも大きさも肌触りもちがう「幸せ」。読んだらきっと、自らの日常にある小さな「幸せ」に気づいてにこやかになる、そんな1冊だ。

BAUSでは、『でも、ふりかえれば甘ったるく』のスピンアウト企画として、著者や制作関係者、ゲストを迎え、リレーコラムをお届けする。今回のゲストは、NINE STORIES かとうさおりさん。 [Sponsored by シネボーイ]


今夜、嵐のような雨の中で。

私はとっくに気づいている。激しさとは裏腹に、雨音の規則正しいリズムが静けさを部屋に運びこんでいることを。

思考がリズムにシンクロを始める。

なにかについて考えるのには最良の夜だ。特別な音楽は要らない。

傍らには一冊のペーパーバック型の本がある。
一回り小さい版型のサイズ感もかわいらしく、エッジーなイラストが目を引く。
(特にお寿司が3貫乗ったお皿が粉々に割れているイラストは、ここしばらく目にしたイラストの中でも最高の部類!)

こんな夜に手にした、ノスタルジーさとほんの少しの倦怠感を含んだタイトルの、この優しい本について。

色に例えるなら、グラデーションの合間。

夕暮れ、白い雲と青い空の間を染めていくピンク色。

濁った水の色。

アスファルトに跳ね返る、光る水たまり。

Somewhere, 何かしらの合間と合間で立ち尽くしている、私たちの色。

そんな本について。

紹介文によればこの本は、10人の女の子たちが彼女たちの「これまで」と「これから」について語り、それぞれの幸せの形について想いを綴ったものだそうだ。

「これまで」と「これから」。

考えてみると、私たちはいつも何かの間に存在している。

人生の幕間。

物理的な前後。

これまでとこれから。

時間と空間。

後悔とわくわくする予感。

空腹と満腹。

伝えたかったことと言い出せなかった理由。

まぶしく美しい男の子、その光で私が影になる。

パラパラと読み始めた。

私の会ったことのない女の子たち。生まれた場所も職業もまるで違っている。

彼女たちの気持ちに寄り添う場所に立ってみる。

ページを追いかけ、走り出す私。

そしてまた、繋がっていくページの束。

確かな既視感のある情景とシチュエーション、今はまだ知らない、きっと未来の私を待つ可能性、そしてシンプルに好きな一文。彼女たちのことばの、そんな箇所に付箋でしるしをつけていくと、本はあっという間にピンクの付箋で埋め尽くされてしまった。

さて、小説を読むときや映画を見るとき、私は昔からその物語に自分を登場させるという癖がある。

物語の登場人物としてではなく、同じステージの中に立ち、私は透明の存在として物語を眺めている。

その一風変わった私の癖の影響か、彼女たちのこれまでの人生や感情のまとまりに、私はかなり共感していた。というよりも私自身のことのように受け取った。

彼女たちの「これまで」は、私の「これまで」だったかもしれない。あの時の感情は私のものではなかったっけ。

全然知らなかったことなんかじゃない。

私の、私たちの、彼女の、または彼らの。

もう一つの。私の。連続した隣り合わせの世界で。私の中。

作中で、数名の女の子たちが書いていた「この本を手にする人はどんな人で、どこでこの物語をよんでくれているんだろう」。

それに対する私からの返事はこうだ。

それは私。あるいは彼女たち?

受け取ったことば。

彼女たちも私の物語を、もう一つの彼女たちの物語として抱きしめてくれるだろうか。

 

最後に。
この記事の依頼を私にしてくださった西川さんからは、日々私が個人的に映画に携わる活動をしていることもあってか、映画に少し関連した内容もとリクエストを頂いていた。

しかしながら、本の感想と映画というものを結びつけることが私の拙い文章力では非常に難しく断念した。

そこで、私のとりとめのない日々の断片を彼女たちへの返答として、ほんの少し映画を交えて紹介し、締めくくらせて頂きたいと思う。

映画を見た時の記憶は、私個人の場合、本編の内容にプラスして、ほとんどがその時の思い出と同居している。

※形式は、私の大好きな作品であるジョー・ブレイナードの『僕は覚えている』を意識させて頂いた。また、年々記憶力の減少が著しく、主にここ最近見たものが多いのはあしからず。

 

そして、彼女たちへ。

I remember 『ヴィンセントが教えてくれたこと』― めがねかけてるなんて知らなかったよ。―

I remember 『汚れた血』― いつもの学校帰りに、疾走する愛」とやらに憧れて、誰が始めたのか、駅までの一本道をアレックスの真似をして笑いながらはしゃぎながら走り抜けた。デヴィッド・ボウイの 『Modern Love』が脳内再生。

I remember 『アメリカン・スリープオーバー』- お願いだから『It follows』から見てほしいって言ったのに、やっぱり見てくれてなかった。いつもあの人は私の話を全然聞いていない。-

I remember 『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』― 究極に美しいものと楽しいことしか好きじゃなかった父と最後に見た映画。というのも、今後一緒に映画を見る機会は決して訪れないだろう。―

I remember 『ヴァージン・スーサイズ』- 世の中の男子には2通りのタイプがいる。ソフィア・コッポラの映画が好きなタイプと理解できないというタイプ。私はそのどちらとも分かり合えない。―

 

「でも、ふりかえれば甘ったるく」

「でも、ふりかえれば甘ったるく」

PROFILE

『でも、ふりかえれば甘ったるく』

カメラマン、芸術家、ライター、編集、浪人生等様々なバックボーンを持つ女性10名のみで制作したオムニバス集。悩みながら、もがきながら、噛み締めながら「今」を生きる。女性9人が自分らしく想いを綴る、それぞれの「幸せ」とは。彼女たちの「これまで」と「これから」をまとめたエッセイ・随筆集。
全国の書店、各種通販サイトにて発売中。

【目次(著者 / タイトル)】
01. 伊藤 紺 / ファミレスのボタン長押しするように甘く
02. 生湯葉 シホ / 永遠には続かない
03. こいぬま めぐみ / 検索結果は見つかりませんでした
04. いつか 床子 / 幸せでない話
05. mao nakazawa / 私の庭
06. 菅原 沙妃 / ここにいていいよ
07. 西平 麻依 / 大人になるのは、きっとそれから
08. 渡邉 ひろ子 / 夜の散歩から
09. エヒラ ナナエ / 愛すべき孤独に
10. ery / カバーデザイン

【Credit】
発行元:株式会社シネボーイ / PAPER PAPER
発売元:日販アイ・ピー・エス株式会社

Produce:西川 タイジ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)
Book Design:近成 カズキ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)

http://www.cine-boy.com/?product_cat=book
http://amzn.asia/iytxasX

    PROFILE

    NINE STORIES かとうさおり

    ものづくりのプロジェクトとしてNINE STORIESをスタートさせる。近年は、ものづくりと映画を自主上映する他、各種イベントのコーディネート業も行っている。 この夏はまた映画関連の仕事でもりだくさんの予定。


      トップ挿絵・エヒラナナエ 文・NINE STORIES かとうさおり 編集・上野なつみ

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