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ファッション業界の外側から、世界に挑む。住所不定の新ブランド「ONFAdd」とは。

NEWPEACE 高木新平 / 早川和彦 × ファッション編集者 軍地彩弓

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これまでシェアハウスやネット選挙解禁など、領域問わず様々なムーブメントを仕掛けてきたNEWPEACE高木新平さん(写真・中央)がこの度、プロダクトブランド「ONFAdd(オンファッド)」を立ち上げた。「ONFAdd」はOf No Fixed Addressの略で住所不定を意味する。対談では、「ONFAdd」のプロダクトデザイナー早川和彦さん(同・右)、『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターとして世界のファッションの潮流を知る編集者・軍地彩弓さん(同・左)とともになぜ今ファッションをやるのか、「ONFAdd」は何を目指しているのか、という本音に迫った。


松尾芭蕉のスタイルを21世紀的に再解釈したブランド作り

ーーこれまで高木さんは、「社会に新たな文脈をつくる」をモットーに、ソーシャルキャンペーンや企業ブランディングなどのお仕事をされてきました。なぜ、ファッションブランドを立ち上げたのでしょうか。

高木:実は僕、生まれつき左手に障害があって、コンプレックスだったんです。

軍地:そうだったのね! 全然知らなかった。

高木:そんな僕を救ってくれたのがファッションでした。小学校や中学校の時ってピュアだから、夏=半袖みたいな単純な思考回路じゃないですか。でも僕は半袖を着たくなかった。着られなかったんです。でもそんなときに当時ストリートブランドが流行りはじめていて、僕は「Supreme(シュプリーム)」のロンTを着ていたんです。スタイルとしての新しさがあったおかげで、違いを魅力に変えることができた。それが僕のファッションの原体験です。
そこからグラフティをやり始め、一応早稲田大学に入ったものの、繊維研究会*1というマニアックなサークルに所属して、ひたすら洋服作り、目の前の図面とミシンに没頭する日々。社会に出る段取りになって洋服作っているだけだと産業的にも厳しいなと思い、広告屋としてコミュニケーションを考える仕事をしはじめました。
ただやっぱりどこかでずっとファッションデザインやりたかったんでしょうね。気づいたら会社で勝手に作ってました(笑)。まずは自分で作りながら、1年くらいしたときに、これはコンセプトとして打ち出せるものになるかもと思い、仲間を巻き込みはじめました。

*1…1949年に創立された長い歴史を持つファッションサークル。近年パリコレにもコレクションを発表している「ANREALAGE(アンリアレイジ)」デザイナー森永邦彦氏などを輩出。

ーーONFAddのコンセプトはどのように考えられていったのでしょうか。

高木:インディペンデントな僕らがやる以上、嗜好性が高いものにしようと思いました。普通な洋服であればユニクロやH&Mで十分ですから。僕のアイデアとしては、ITサービスなどが世界にうってでるのは難しくても、モノであれば海外に流通させることができると思っています。そこで、世界の人々が驚く日本文化的なものを自分たちクリエイターが使いたい形に再構築しようと考えました。
イメージは詩人の松尾芭蕉です。彼は必要最小限のスタイルで、日々移動しながらインスピレーションを受けて創作活動をしていて、それはクリエイターの理想形だなと。アウトプットを五・七・五というミニマルな要素の中に、無限に広がる表現を追求したところもかっこいい。そこに触発され、住所不定という意味の造語「ONFAdd」をブランド名にしました。
だからどのプロダクトも、FUTONやFUROSHIKI、FUTOKORO、SAMUEという日本的な文脈がベースになっていて、それらを最新技術などで現代的に蘇らせたプロダクトとして展開されています。

マスから個人へ。フラットになりつつあるクリエイターと消費者の関係

ーー「ONFAdd」にはメインデザイナーが不在で、プロダクトによってデザイナーが異なるんですよね。どうしてそういう試みをされているのでしょうか。

早川「ONFAdd」は、トップダウンのブランドではなく、共感によるコレクティブを目指しているからです。つまり住所不定なプロダクトを作り、使うクリエイターの集まり。1000人クリエイター、1000人ユーザーという状態が理想です。
アパレルでは珍しいかもしれませんが、サイトには制作に関わったメンバー全員がクレジットに入っています。デザイナーやパタンナー、サンプル制作者や工場の人もフラットです。ジャンルも多種多様で、僕はプロダクトデザイン出身ですが、建築家やバッグデザイナー、編集者、現代アーティストなどの顔ぶれがクレジットに並びます。だからこそ色んなアイデアが出る。
今まさに同時にプロダクトの開発が進んでいて、内々の展示会で知らない商品ができていて、高木も初めて見て驚いていたくらいです(笑)。このように国内外問わず、「ONFAdd」のコンセプトを面白がってくれたクリエイターたちとどんどんコラボしていくことで、ブランドをつくっていきたい。基本的には流通も自社ECをベースとしながら、卸も共感してくれたところだけ行っていく予定です。

ーー国内外のファッション業界の動向を見ている軍地さんからは、「ONFAdd」はどのように映りましたか?

軍地:面白いですね。業界に風穴を明ける存在になるのではないかと期待を込めて見ています。いま、社会の情報伝達の構造や影響力がマスから個人へと変わりつつあるなかで、既存ブランドは、作り手から買い手までの構造が旧態依然としたままです。本来ならばファッション業界は“坑道のカナリア”のように、新しい時代の流れを敏感にキャッチする存在だったのにです。
とはいえ、気鋭のブランド「VETEMENTS(ヴェトモン)」が従来型のコレクションはもうやらないと発言するなど、ファッション業界のあり方の根底を問われる瞬間が今年いくつもありました。今が過渡期なんです。そのタイミングで業界の外側から出てきた「ONFAdd」の登場は新しい時代を感じます。

ガジェットかファッションか。越境するために必要なスタイルとは

軍地:ただ「ONFAdd」は機能的なマテリアルなどを採用したプロダクトだからこそ、ガジェットとして見られないように気をつけなくてはね。ファッション的文脈に解釈してもらえるか、ガジェットとして見られるかの差は、スタイルを作れるかどうかだと思うんです。ファッションブランドはそのブランドのアイテムを身につける人に何かしらの変化を与えるべきもの。
「BALENCIAGA(バレンシアガ)」は、2018年の春夏のコレクションで「crocs(クロックス)」とコラボレーションシューズを作っています。生活用品でさえ、バレンシアのスタイルがアドオンされればブランドになってしまう。そういう時代にどの文脈から入り込んでいくか。ラグジュアリーブランドとストリートブランドが並ぶ時代だからこそ、「ONFAdd」も世界から一目置かれるようなブランドになる可能性を秘めています。「A BATHING APE®(エイプ)」だって、Tシャツ一枚から勝負かけて一つのシーンを作りましたから。

高木:確かにそうですね。だから、僕たちはあらゆる側面からスタイルを感じさせるプレゼンテーションをしていかないといけないと思っています。
先日メンバーの一人が背負子を担いだ行商スタイルで、ファッションウィーク中のパリに行ってきました。いろんなショップで提案してきましたが、格好も含めて結構目立っていたようです。せっかく布団というプロダクトを作っているのだからと、パリのど真ん中にてAirbnbで1円で出すというプロモーションをやったところ、それはすぐにアカウント停止を食らってしまいましたが(笑)。

高木:まあ、トライ&エラーですね。次は国内で都市部から山奥までを「ONFAdd」アイテムを身につけて生きていくというドキュメンタリーを作ろうと思っています。そしてそのフィルムディレクターのフランス人に、全部のアイテムのフィードバックを書いてもらうと。それをオープンにしてまた改良したアイテムを作りたいなと思ってます。

早川:売り方も普通の店舗ではなく、みんなが背負子で行商になって売っていくのも面白いなと考えています。「ONFAdd」はコンセプト的にも、作り手と使い手がシームレスでいたいので。それを面白がってくれる人がどんどんブランドの共犯者になっていくような仕掛けをしていきたいですね。

 

世界で戦うためにモノや素材ではなく、日本的『思想』を輸出する

ーー日本のブランドが世界で勝っていくためには、どのようなことが大事になるんでしょうか?

軍地:今、日本全体の方向としては糸から生地、縫製とすべてをドメスティックに作ってそれを海外に輸出することで『Made In Japan』ブランドを売りにしようとしています。けれど、実は海外の人が日本に価値を見いだしている部分は、日本の古来から現代まで脈絡と受け継がれている細部に宿る感性や思想が『from Japan』である、ということなんです。
グローバルなサプライチェーンのなかに日本が組み込まれるには、すべての生産行程を日本で賄うことではなく、思想を伝えていくことで、はじめて割って入ることができると私は考えます。だから今回伝統的な浮世絵や布団など日本的思想をインスピレーション源としながらも、アウトドアに使われるような最新素材でプロダクトを作っていることは、キャッチーにうつりましたね。

高木:僕らもミラノサローネに視察に行って、世界から注目を集めている「Tokujin Yoshioka Design」や「nendo」を見て、そう思いました。彼らは世界に提案するために、日本のトラディショナルに頼らず、思想を現代的に解釈しなおして、新しいプロダクトや空間をつくっている。そういう発想が大事だなと。大手で言うなら「MUJI」もそうですが、海外から”Wow!”と驚かれる日本的表現を追求し、日本発世界へのプラットフォームにできればと思っています。

ーーまだブランドを立ち上げたばかりですが、これからチャレンジしたいことがあれば教えてください。

高木:1年半かけて10製品ほど開発し、在庫管理や販売などの土台をつくり、ブランドの核が形になりました。ここからは色んなクリエイターやショップ、メディアとコラボレーションして世界観を拡張していきたいですね。アカデミックな背景を持った方と日本文化を掘り下げたいですし、エンジニアとIoT製品もつくっていきたい。とはいえ、まずは売ることですね。在庫を無くしていかないと次をつくるお金が生まれないので(笑)

早川:日本文化×テクノロジーでいうと、例えば、3Dスキャンで浮世絵をデータ化して、色んなところに展開できる版を復活させていきたいなと。そうすればどんなサイズにも刷ることが可能になるので。他にも、有機ELや電子ペーパーなどを使った現代版の屏風も考えています。屏風はポータブルウォールですから。

軍地:屏風ほしい! 今のオフィス空間を屏風で仕切りしながら、ディスプレイとして情報表示させたり、ホワイトボードとして使ったり、そういうプロダクトができると、そのままワークスタイルの提案になりそう。

高木:いいですね。あとはやはり、住所不定な家をつくりたい。まずファーストユーザーとして僕が住みたい! …とまぁ、まだまだスタートラインに立ったばかりですが、やりたいことは尽きないですね。業界やジャンルなどに囚われず、自由な発想で面白いモノをつくっていきたいです。そのためにも多種多様なコラボレーターを募集しています。まずは、10月19日-21日の3日間、NEWPEACEのオフィスを改装して、エキシビジョンをやるので是非足を運んでみてもらえたらうれしいですね。

ONFAddウェブサイト:https://onfadd.com

PROFILE

高木 新平/NEWPEACE代表

1987年、富山生まれ。早稲田大学卒業後、(株)博報堂に入社。SNSなどを活用したクリエイティブ開発に携わった後、独立。「よるヒルズ」や「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを各地に立ち上げ、ムーヴメントを牽引する。またネット選挙運動解禁を実現した「ONE VOICE CAMPAIGN」などを主導。そのライフスタイルが、NHKなど様々なメディアに取り上げられる。2014年、多様なクリエイターを集め、NEWPEACE Inc.を創業、代表に就任。社会課題からストーリーを組み立てることで、新しい形のブランディングを実践している。

https://newpeace.jp/

    PROFILE

    軍地 彩弓/編集者

    2008年に、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。​2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。 現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍している。


      PROFILE

      早川 和彦/プロダクトデザイナー

      1984年岐阜県高山市生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業。メーカーのインハウスデザイナーとして経験を積んだ後、2014年より独立し早川和彦デザイン事務所を設立。2016年よりNEWPEACE Inc. / CEKAI / NN projectに所属。プロダクトの企画・デザインを中心に、ブランディング、パッケージ、インテリア、空間など幅広い提案を行っている。


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