FEATURE

100年前の腕時計を復刻 「TMPL(テンプル)」に学ぶ、「これからの共創とビジネス」

南安精工 × CEKAI × knot

記事メイン画像

ハイテクなスマートウォッチユーザーが徐々に拡大するなか、100年前の腕時計を復刻するプロジェクトが立ち上がった。 時計の産地・長野県で30年以上に渡り時計製造に携わってきた株式会社南安精工と、クリエイティブ集団CEKAI(セカイ)のクリエイターによる新しい腕時計ブランド「TMPL(テンプル)」だ。ウォッチデザインを「その時代を象徴する歴史・文化の結晶」として捉え、各時代の腕時計の特徴を独自の切り口で再編集。高い品質と適正価格で現代に復刻していくのだという。新ブランドでありながら「復刻」を掲げ、最初の販路にクラウドファンディングを選択。今回は、株式会社南安精工 代表取締役の小林知之さん(写真・中央)、クリエイティブ集団CEKAIの早川和彦さん(同・右)、そしてアートディレクションを担当したknotの森田賢吾さんにお集まりいただき、その実験的で挑戦に満ちたプロジェクトに迫った。 [Sponsored by CEKAI]


「ものづくりの新しい形」クリエイティブ集団と地方メーカーのチームづくり

ーーチームが結成された経緯から教えてください。

小林さん:長野県信用組合さんに、クラウドファンディングの「GREEN FUNDINGを運営する沼田さん(株式会社ワンモア 代表)を紹介してもらったのが、このプロジェクトの最初でした。長野県は「作ること」には長けているが、「売る力」が不足している。自分たちで販売までできるようにブランドを作ろうという県の取り組みを始めていたんです。起案にあたって、製造以外の部分には強くないことを沼田さんに相談したところ、紹介してくださったのがCEKAIさんでした。

早川さん:沼田さんとは以前から繋がりがあって、僕が前職で時計のデザインをしていたのも知っていたんです。時計メーカーを退職してプロダクトデザイナーとして独立してから、僕が時計のデザインを手がける機会はほとんどありませんでした。だからお話をいただいたときは、素直に嬉しかったですね。

ーー働き方や専門領域が異なる皆さんがチームとして結束できたのはどうしてですか?

早川さん:このプロジェクトって、ものづくりの新しい形になる気がしていて。通常のプロダクトデザインは、受発注の関係が多いですよね。ところが今回は、両者が一緒にブランドを作っていく「チーム」という感覚がありました。最終決定権もメンバーが各々の持ち場で決定権を持つ。製造面は安心して南安精工さんにお任せしていたし、自分はブランディングとデザインに責任を持ちました。ここまでの信頼関係の中で一つの価値を創り上げていく感覚は初めてでした。

森田さん:同感です。普段は広告制作が主なのでクライアントの発注を形にする仕事をしているんですが、今回は違いました。チームで試行錯誤しながら完成まで走っていく。自分から提案しないと進まないって気持ちもあったし、どんなことでも提案すれば全員が聞いてくれる環境もありました。やりやすかったです。

小林さん:みんな、人任せじゃなく目標に向かってできることを全力でやっていました。やりとりの中で、それぞれの妥協しない姿勢が見えていましたから、信頼していたし、感心もしていました。それで、自分もできることをやろうって。

早川さん:ベースには、レベニューシェアという仕組みも影響していたと思います。対価どうこうもあるとは思うけれど、レベニューシェアは良い物を作るマインドを強くしたように思うんです。リソースを出し合って作った結果がダイレクトに還元されるから、ある種の覚悟があって。運命共同体じゃないですけど、そういう緊張感は常にありました。実際にやってみたら、すごく健全なものづくりの形な気がして。良いものができて満足ではなくて、PRとか販路とか、その先の話もしたり。知見が乏しいところは、「どうすればいいか」をみんなで考えましたね。「良いブランドにする」という共通意識が、チームの原動力になったと思います。

現代のビジネスシステムの利点を活かすプロジェクト構造

ーークラウドファンディング活用も本プロジェクトの特徴かと思います。新しいビジネススキームを使うことに抵抗はありませんでしたか?

小林さん:クラウドファンディングを知ったのは、香港のメーカーと打ち合わせをしていたとき。「Kickstarterを利用して日本製時計を世界規模で販売したい」と言っていて、なんとなく仕組みを知りました。そのせいか、抵抗はまったくなかったですね。香港や中国の取引先が世界をよく見ていて、彼らと仕事をしていると自然と情報が入ってくるんです。これまでも自社のオリジナル時計を製造してきましたが、「どう売るか」がいつも頭の痛いところで。その点クラウドファンディングは、受注数やユーザーの動向が知れるから作り手にとっては助かるんです。無駄がない。

ーー形になっていないものをユーザーに伝える難しさがあると思いますが、どんなコミュニケーションを?

森田さん:明確なコンセプトとストーリーがあったので、元々はそれを軸にコミュニケーションしたいと考えていたんです。でも、「まだない物なのに、さらに概念的なことだけ言われてもどうなんだろう‥‥」という話になって。クラウドファンディングを利用する人たちの特性や顔を思い浮かべながら、伝わる表現を探っていきましたね。トライアンドエラーを繰り返しながら、常にベストと思われるページに現在進行形でアップデートしています。

早川さん:単に物を作って売って終わりじゃない、継続性のあるブランドにしたいというのも念頭にあって。クラウドファンディングが終わっても、ブランドとしてユーザーとコミュニケーションし続けられる土台作りも心がけて、その辺のバランスにはすごく配慮しました。

森田さん:ページの頭にくる動画の構成とか印象も、かなりこだわったよね。

早川さん:プロモーション素材の制作ではCEKAIのネットワークが活きましたね。CG、スチール、音楽、動画編集、外部所属からフリーランスまで、いまベストと思える人にスピード感を持ってチームに入ってもらうことでクオリティの高いものが作れた。どれも想像以上の完成度になりました。

TMPLのブランドアイデンティティと開発ストーリー

ーー「復刻」がキーワードかと思うのですが、なぜヘリテージウォッチだったのでしょうか?

早川さん:いくつか方向性を提示した中で、お互い納得できたのがヘリテージウォッチでした。南安精工さんが、古い時計の修理を得意とする「時計屋復刻堂」という店舗をやられていたことがアイデアの起点になって。過去を大事にする姿勢とヘリテージウォッチを重ねたことが始まりです。

小林さん:ヘリテージウォッチをつくると聞いてすぐに、賛成しました。「時計屋復刻堂」で修理に携わっていると、いろんな時計が見れるんですよ。ブランドごとの弱い部分もすごい部分もぜんぶ分かる。それと、お客さんの時計を大事にしている気持ちをいつも感じていて。修理してまた動くようになると、とても喜んでくれるんです。だから個人的にもヘリテージに興味があったし、こだわっていけるぞと。

早川さん:ヘリテージって、普通は長い歴史のあるブランドがやることなんですよね。積み重ねてきたブランドの価値を見せるために、過去のモデルを復刻させる、みたいな。だから、スタートしたばかりのブランドがヘリテージなんて、まずないと思います。でも逆にフラットな視点で、その時代の出来事やどんな腕時計があったのかを紐解くことに挑戦しました。さっそくリサーチしてみると腕時計が普及し始めたのが100年前っていうことが分かって。だからファーストモデルは1910年代となり、デザインモチーフもすんなり決まりました。

ーー過去のウォッチデザイン復刻という手法で、ブランドの個性を持たせるのは難しかったのでは?

早川さんTMPLの根っこは、時代を切り取ること。ブランドには自分たちの顔というかスタイルがあって、それがアイデンティティになっているわけですけど、僕らは時代を切り取っていくことで、どんな形にもスタイルにも変わっていける。そのことが他ブランドにはない個性になると思っています。
今回は100年前なのでクラシックなスタイルですが、もし1960年代だったらフューチャリスティックな印象になるだろうし。トレンドも人の好みも移り変わっていく中で、姿形を変えていける柔軟さや型にとらわれないブランドの作り方は新しいんじゃないかと思います。

森田さん:大前提として「ただ復刻ブランドを作りたいわけではない」というのがあって。100年前の復刻だけなら、100年前の書体やデザインを研究すればいいけれど、そうじゃない。復刻デザインを身につける「WEAR THE AGE.」というコンセプトをどう表現していくかが重要で。今後復刻するのが50年前かもしれないし、30年前かもしれない。先々のことまで考える必要があるんです。
だから最初は可変性のあるロゴを提案しました。ロゴが都度変化して、同時にフォーマットにもなっていく、ダイナミックアイデンティティ的な考え方で。実際には時計の盤面に配置したときの象徴性や再現性のことも考慮して、ロゴは王道な方向に定着させました。
キービジュアルは、復刻する時計に関する当時の写真を、製品シルエットで白抜きするというデザインにして、今後どのモデルにも展開していけるフォーマットを作成しました。どの時代を復刻したとしても、ブランドの個性は保っていけるように。そういう大きな枠組みを作ることを、いちばんに考えていました。

TMPLのロゴ制作時には、マーケティング素材上の見え方だけでなく、時計の盤面に配置したときの象徴性や再現性も考えた。
TMPLのキービジュアル。復刻する時計に関する写真を製品シルエットで白抜きし、 同ポジで製品カットを並べることでコンセプトの「WEAR THE AGE.」を表現した。

ーー100年前のデザインを復刻させる上で、デザイン・技術それぞれの側⾯から難しかった点や⼯夫した点を聞かせてください。

早川さん100年前の現物や情報が、簡単に手に入らなくて探しに探しましたね。時計メーカーにいたときは新しいものを生み出すのが仕事だったので、ここまで深く時計の歴史に目を向けることがなかった。古い時計や時計の歴史については今回のプロジェクトを通して知ることも多く、デザイナーとして、物事の成り立ちや歴史を知ることの重要性を再認識しました。

小林さん:自分として難しかったのは、いちばんは製造コストの問題かな。スタート時にある程度のコストイメージは持っていました。その中でどう再現するか、そしてデザインに対してどんな機能を持たせることができるか。実用性がないと意味がないので、日常的な使い勝手の良さも追求しました。とはいえ、早川さんのデザインを忠実に形にするのはやはり難しかったですね。

早川さん:技術的に大変だろうっていうのは、想像できたんですけど。形のイメージを実現することにかけては、南安精工さんはプロですから。安心してデザインを提出できました。「なんとかできないですかね?」って言いながら(笑)。

小林さんベルトとケースを繋ぐ脚とか大変でしたよ。こちらが求める品質でやれるメーカーがなかなかなくて。時計って文字盤は文字盤屋、針は針屋みたいにパーツごとに作る会社が違うんです。毎回自社製作も含め要求にふさわしいパーツメーカーを見つけるところから始める。ただ、それだけではダメで。メーカーの技術とこちらの指示のバランスが取れて初めて良いものができる。「こうしてほしい、こういう工夫ができないか」と対話を繰り返す。デザインと設計・製造のせめぎあいは常にありましたね

プロジェクトの成功が予感させる「これからの共創とビジネス」

ーープロジェクト開始2日目で目標金額を達成、現在400万を超えています。支援者からのリアクションはどうですか?

小林さん:ページに皆さんからのコメントが入るんですよ。それも良い内容ばかりで。自分で店頭に立つことがほぼないから、お客さんの声に触れることも多くなくて。とても嬉しいし、期待に応えられる良いものを作ろうと思います。

早川さん:クラウドファンディングも、復刻も、チャレンジした部分が多くて。「受け入れられてもらえるだろうか」っていう気持ちも正直あったけれど、期待以上のリアクションがもらえて、挑戦して良かったと思いました。

森田さん:僕の周りのデザイナーとか、割とモノにうるさい連中から、プロダクトも世界観も「いいね」って言ってくれていて。実際に距離が近い人間からのリアクションがあるのも嬉しいですね。

ーー成功と言っていいかと思いますが、この結果は今後の「ものづくり」に繋がりそうですか?

早川さん:「新しくデザインを生み出すのではなく、過去のものを現代的にどう解釈するか」がポイントになっていて。要素を分解して再構成することで、新しいブランドや価値に昇華できることを、プロジェクトから学びました。編集というアプローチで、新しいものづくりにトライできたのは良かったなと。

小林さん:日本製の良さは高品質で、価格が高すぎないことだと思うんです。高級時計は、どうしたってスイス製が強い。日本ではソーラーや電波時計にメーカーの趣向が寄ってきていて。機能が増えたぶん価格もプラス23万って、どんどん上がっていく。それは使う人にとって、どうなんだろうって。メーカーが技術力を上げるのは必要なんだけど、「消費者がそこにはいない」。ユーザーが何を望んでいるかを、ちゃんと考えて汲み取ることが大事だと思いました。

ーークラウドファンディングはあと1ヶ月程度で期間が終了しますが、今後のTMPLの展望は?

森田さん:広告の仕事でも長いプロジェクトはありますけど、単発ものも多いので。TMPLは自分の中でも一つのチャレンジとして、このメンバーで長い時間をかけて成長させていけたらと思っていますね。日本を代表するブランドになるくらいに。

小林さん:自分の場合は、ここからが本番。良いものを作ったあと、どう販売を伸ばしていくか。メーカーの楽しみでもあり、難しいところです。でも、このチームメンバーは、そこまで自分と同じ目線に立って仕事をしてくれる。支援者の方々の反応を見ながら、またチームのみんなで次の戦略を立てていきたいですね。クラウドファンディングが終わったら、定価にはなりますが一般販売もスタートしますので。

早川さん:時計が売れなくなったとも言われ、「何をもって時計を買うんだろう」とずっと考えていて。時間を知るだけが機能じゃなくて、ステータスやファッション、贈り物、時計を買う意味っていろいろあると思うんですよ。「WEAR THE AGE. 」には、そんな意図もあって。過去に目を向けるのも「時を知ること」だし、今回自分たちがそうだったように、そこから視点や考え方が広がったりするはず。TMPLは、時計を買う一つの理由になり得るんじゃないかと。そういう時計の新しい価値を、ブランドとして作っていければと思います。

PROFILE

小林知之(こばやし ともゆき) 

株式会社南安精工 代表取締役 時計の産地長野で長きに渡り、超精密機器に携わってきた株式会社南安精工の代表取締役。ミクロンオーダーの部品加工技術を武器に大手自動車部品メーカーや機械メーカー、測定機メーカー、電化製品メーカー等の様々な要望に応え精密機械装置の設計・製造を行っている。設計力と部品加工技術と職人の組立技能を合わせ、オリジナル商品として時計の製造も行う。「TMPL」のプロジェクト起案者。プロダクト設計、製造を担当。

https://www.nanan.co.jp/

    PROFILE

    早川和彦(はやかわ かずひこ)


    クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー 1984年岐阜県高山市生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業。2014年より独立し、早川和彦デザイン事務所を設立。2016年よりCEKAIに所属。 物事の前後にある環境・状況等の文脈から関係性を導きだし、それぞれに適した手法や表現方法で、プロダクトの企画・デザインを中心に、ブランディング、パッケージ、インテリア、空間など幅広いクリエイションを行っている。 「TMPL」ではクリエイティブディレクション、プロダクトデザインを担当。

    http://kazuhikohayakawa.com

      PROFILE

      森田賢吾(もりた けんご) 

      アートディレクター/デザイナー 1984年神奈川県生まれ。2009年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年、大貫デザイン入社。2013年博報堂デザイン入社。2016年より独立。デザインチームknot設立。VI、広告、グラフィックを中心とした様々なクリエイティブの企画、アートディレクション、デザインを手掛ける。JAGDA正会員。主な受賞に、NY ADC賞 Bronze×2、D&AD Wood Pencil、ONE SHOW Merit award、亀倉雄策賞・JAGDA賞ノミネート、東京ADC・東京TDC・世界ポスタートリエンナーレトヤマ入選など。「TMPL」ではアートディレクション、グラフィックデザインを担当。

      http://www.knot-studio.com

        <Crowdfunding>

        GREEN FUNDINGでは10月16日まで初回販売を実施中。
        「TMPL」についてより詳しい情報も掲載されています。ぜひ合わせてご覧ください。
        >> 世界に誇れるMade in NAGANO(長野)の超精密技術で復刻  東洋のスイスが現代に蘇らせた100年前の腕時計『TMPL(テンプル)』

         

        Credits

        Technical direction: 小林知之(株式会社南安精工
        Creative direction / Product design : 早川和彦CEKAI
        Art direction / Graphic design:森田賢吾(knot
        CG direction:持田寛太CEKAI
        Photographer:平田正和(博報堂プロダクツ
        Assistant photographer :堤悠貴(博報堂プロダクツ
        Movie editor:齊藤公太郎
        Sound design:河井孝晃
        Creative Producer:加藤晃央(CEKAI
        Producer:篠田哲郎(CEKAI
        Project manager / Copywriter :鈴木亮太郎(CEKAI
        Project manager:山田大貴(CEKAI
        Crowdfunding Producer:沼田健彦(株式会社 ワンモア
        Crowdfunding Producer:星野雅人(株式会社 ワンモア
        Production:株式会社南安精工
               CEKAI
               株式会社ワンモア 

        カメラマン・今井駿介 文・鈴木亮太郎 編集・上野なつみ 撮影協力・BUNDAN

        関連記事

        関連記事