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博展 × WOW がつくりだす、デジタルを駆使した“引き算”の体験とは?

株式会社博展 × WOW

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テクノロジーの発展に伴い、メディアアートは表現の一つのジャンルを築き上げた。ブラウザの中で完結していた表現がモニターを飛び出し、リアルな空間へと拡張を続けている。様々な領域でのリアル体験の創出を通じて、企業のエクスペリエンスマーケティングを支援する株式会社博展、国内外の映像作品やインスタレーション、ユーザーインターフェイスデザインなどを手がけるビジュアルデザインスタジオWOWの2社もまた、空間表現の可能性を広げる作品を制作し続ける重要なプレイヤーだ。今回は2社が共同で作り上げた「東京ミッドタウン / 光と霧のデジタルアート庭園」「資生堂 / NEURO_SURGE」の制作背景から、人の感情を刺激するインスタレーション、今後求められる体験の設計について話を聞いた。(sponsored by 株式会社博展)


空間から体験へ。デジタル表現によって変わるブランドコミュニケーションのあり方

ーー博展は近年デジタル表現を用いた空間設計に注力していると伺いました。領域を広げている背景を伺えますか?

桑名功さん(博展)創業時は展示会場の空間設計から始まった博展は、現在イベントプロモーションやオフィスなど、様々な領域の空間設計を通じてコミュニケーションデザインを行っている会社です。人と人、企業と企業をつなぐコミュニケーションを形に落とし込むのが主な業務ですが、近年は自身の役割を「体験デザイン」と定義しています。

あらゆる要素を含んだ空間をつくるとき、体験者がどういう順番で空間内のコンテンツに触れ、その時どういう感情が起こるのか。その設計をしていく上で、それこそスタッフの衣装やディティールを含めて考えながら設計していかねばなりません。こうして担当する領域が広がっていったのに合わせてデジタル領域での表現にも取り組み始めました。

株式会社博展 クリエイティブディレクター 桑名功さん

ーーリアルからデジタルへ、モノ消費からコト消費へ、消費者の嗜好も変わってきていますよね。

桑名さん:それに伴い、空間設計もハードをつくるだけでなく、場を通じた体験のプロデュースが求められるようになります。イベント会場などで流されている映像コンテンツはもちろん、それが空間の中でどんな体験をもたらすのかが重要ですね。

ーー博展が他社と差別化しているポイントはどこでしょうか?

桑名さん:空間内で人がどう動くかという知見に関しては、50年続く企業としての積み重ねはあると思います。全体のジャーニー設計をベースに、空間のいろいろな箇所に引っ掛かりポイントをつくって、来場者に持って帰ってもらう体験を忍ばせておく。ある種の裏切りが入っていた方が楽しんでもらえたりします。自分たちとしてもやったことがない表現にチャレンジしながら試行錯誤していますね。

ーーそんな博展が度々パートナーを組んでいるのが、WOWですね。

近藤樹さん(WOW):WOWは映像コンテンツを制作する会社として出発した「ビジュアルデザインスタジオ」です。映像が仕事の中心にありますが、映像を使わずに演出することもあります。求められる体験が多様化する中で、空間演出も手掛けています。映像から空間演出、インタラクティブなものまで領域が広がっていますが、ツールが変わっただけで本質はあまり変わりません。人が視覚を通して認識することを設計、演出していくという意味では、どれも「体験のデザイン」なので。

WOW ディレクター 近藤樹さん

ーーPCやスマートフォンで見られる映像と空間の中での映像、制作の仕方は違いますか?

近藤さん:CMやWEBの映像では視聴者がどんな場所、状況で見るのかなど環境を把握しきれません。対して、イベントで流す映像は視聴環境とセットで設計できます。また、イベント会場で流れる映像は環境を支配するための「光」としても作用します。例えばその光自体が会場のムードを構成したりしますよね。反対にモニターで見ると明るくて綺麗でも会場ではそれが眩しく映ることもあるので、ケアする部分は大きく変わります。

「縁側の思い出」をアップデート。制御不能な霧による幻想的な空間

ーーその「光」を演出に利用したのが「東京ミッドタウン / 光と霧のデジタルアート庭園」ですね。

「光と霧のデジタルアート庭園」主催:東京ミッドタウン 期間:2018年7月13日~ 8月26日(https://www.youtube.com/watch?v=kWMJOkk34vM

ーーこのプロジェクトはどんな経緯で生まれたのでしょうか?

桑名さん:クライアントの東京ミッドタウンは「JAPAN VALUE」という理念を掲げ、日本の文化を世界に発信する役割を果たしています。今回は「『花火』を軸にした、日本の夏の涼」というテーマをもらいました。それを私たちなりに解釈し、田舎の縁側で涼みながら、花火をみるという子供の思い出を、都心のど真ん中で体験してもらうというコンセプトを立てました。

ーー会場となった東京ミッドタウンの芝生広場は美術館、商業施設の間にあって、近くを歩く通行人にも目に触れる場所ですね。

近藤さん:展示や企業イベントでは目的を持って訪れるお客様が多くいらっしゃると思うのですが、「光と霧のデジタルアート庭園」は近くを通りかかった人がふらっと立ち寄ってくださるような入り口をつくり、スローダウンした時間を過ごしてもらうことを目指しました。昼間は子供や学生、靴を脱いでリラックスしている方もいました。友人と話しながらとか、お茶をしながらとか一時間近く休んで行かれる方もいたのは嬉しかったですね。屋内イベントのアプローチだとなかなか出てこないコンセプトであり、こういう場所だからこそ生まれた作品だと思います。

青柳龍佳さん(博展):このプロジェクトは、今までの仕事よりも僕たち自身がワクワクできるかどうかを大事にしたんです。一番のポイントはやはり霧ですね。コントロールができないものを入れ込むというのは僕らとしてもチャレンジでした。

株式会社博展 スペースデザイナー 青柳龍佳さん

桑名さん:会場に設置された全長120メートルの霧の発生装置からは一日あたり7200リットルの水が噴出されるのですが、それを情報として知るのと実際に目で見るのは全く違いました。ミスト発生装置の会社もこの規模でやったことはないと言っていたぐらいです。霧は天候によって濃度、流れる向き、滞留時間も変わるので、濃霧注意報が出るんじゃないかと思うほど濃い霧になった日もありました。

青柳さん:そうした不確定要素を受け入れることで、我々の意図していないところで楽しんでもらえた部分もあります。会場となった広場の傾斜に従って霧が溜まった場所があったんですが、そこは子供たちに人気でしたね。映像や光の演出が映える夜をメインに考えていたのですが、日が落ちる前でも涼みながら長時間滞在してくれた方も沢山いました。

「光と霧のデジタルアート庭園」主催:東京ミッドタウン 期間:2018年7月13日~ 8月26日(https://www.youtube.com/watch?v=kWMJOkk34vM

近藤さん:イルミネーションはライトの量が多ければ派手になります。しかし今回は少ない数で、霧によってディフューズされた光が心地よい演出になったし、表現としても面白い試みになったかなと。

ーー目を引きやすい派手な演出とは逆の発想をされたと。どんな狙いがあったのでしょうか?

近藤さん:鑑賞者が想像するというところに日本的な美しさがあると思っているんです。枯山水の砂紋じゃないですが、近しいものを光と霧で表現する。霧が有機的に変化しつづける中に「侘び寂び」を感じて欲しかったので意図的に想像の余地を残していました。その結果、鑑賞者がリラックスした状態で長時間見ていられる作品になったと思います。

新素材を使うことで生まれたピュアな鑑賞体験

ーー「資生堂 / NEURO_SURGE」も光がモチーフになった作品ですね。

資生堂 / NEURO_SURGE(https://vimeo.com/256915452) PHOTO:©TOMOOKI KENGAKU

ーーこの光の線はどのようにつくられているのでしょうか?

久我尚美さん(博展):これ、側面も発光する特殊な光ファイバーなんですよ。繊細なので、折り曲げると壊れちゃったりして取り扱いが難しいんです。仕組みとしては、センサーで感知した体験者の動きをトリガーとして、光ファイバー1本1本の色をレーザーモジュールで制御しています一見、透明な糸に見えるものが突然光って、しかもフルカラーで変化するっていうのは素材としては他にないのでびっくりしますよね。

株式会社博展 テクニカルディレクター久我 尚美

近藤さんこの案件は、「神経感覚」というキーワードをもっていました。神経感覚という言葉に「直線的で電気的」というイメージがあったので、そのモニュメントを作ろうとなって。そこでまずスケッチを描いたら、次の打ち合わせの時に博展さんが光ファイバーを持ってきてくださって、本当に驚いたのと同時に「このプロジェクトは成功する」と確信しましたね。

久我さん:最初デザイナーも、ちょっと太めの蛍光管やLEDだったりを想定していたんですけど、それだと神経細胞の細さ、繊細さみたいなのが出ないんだよなっていう話していたんです。それを横目でチラチラ見ていて「これどうですか?」って(笑)。

ーー素材を見て近藤さんが成功を確信できたのはなぜでしょうか?

近藤さん:見たことない素材の良いところは、その仕組みがひと目ではわからないことです。蛍光管やLEDだと、鑑賞者はまず仕組みがどうなっているかを考えてしまう。しかし、この作品では考える前に「光る線形がある」というのをそのまま頭の中に入れて欲しかった。蛍光灯が光ってると思われたらダメなんですよ。

久我さん:写真を見た人はレーザーだと思うみたいですね。実態のあるものにはまず見えませんよね。長時間露光で撮った写真にも見えますし。

ーー久我さんは元々この光ファイバーの存在を知っていたのですか?

久我さん:私、LEDとかメカ的な光るものが大好きなんですよ。前職の制作会社でディレクターをしていた時にこの光ファイバーを見て、いつかこれをインパクトのある形で世に出したいなと思ってたんです。使えそうな企画があるたびに何度も提案してました。遠くからの鑑賞ではLEDのような光の強いものが向いていますが、繊細さを表現するには、適している素材だなって。こういう形で使うのは初めてということでメーカーさんには苦労をかけましたが…

近藤さん:世界中の在庫をかき集めたんですよね。

久我さん:そうなんです!これを作っている会社さんには伝えるのが大変でしたね。「何に使うんですか!?」みたいな状態からつくりあげていったので。作品を見るまでは、想像しきれていなかったと言われましたが、最後には喜んでくれました。

資生堂 / NEURO_SURGE(https://vimeo.com/256915452) PHOTO:©TOMOOKI KENGAKU

ーー制作過程もかなり大変そうです。

久我さん:一番は素材を扱う難しさですね。このファイバー、鋭角に曲げると折れちゃうんですよね。一見ランダムに組んでいるように見えますが、しっかり構造計算をした設計図をつくっていて、その通りにやらないと設営できないんです。

桑名さん:強いレーザーによって発光しているので、一歩間違うと火を噴きます。なので、設営中のミスは絶対にできないんですよ。加えて、メーカーにも在庫がないので、折れちゃったりすると作品に使える本数が減ってしまう。そういうリスクをひとつずつクリアしながら、3日で設営しましたね。

久我さん:ただの紐をこういう造形にするだけでも大変だと思うんですけれど、それが脆くて危ないっていう(笑)。時間もない中で一発勝負の設営でしたが、「見たことがないものが見れる」という期待が原動力となって、いい作品に仕上げることができました。

「知ってるけど、どこか新しい」作品が心を動かす

ーーこうした空間を使ったインスタレーション作品の制作はますます求められていくと思います。クライアントの課題を解決しながら、作品としてのクオリティをあげるために大事にしていることはありますか?

桑名さん:単純に「見てみたい」という好奇心を持ち続けることですかね。我々の仕事は体験を通じて人と企業、人とブランドの関係をつなぐことです。青柳の言うように、良い体験をつくるためには自分がワクワクするのは大事なので、クライアントワークにも挑戦的な要素は入れてます。明確な答えのない分野ですし、100人いたら100通りの感じ方がある。それぞれの体験をイメージしながら、双方向の体験を作っていくのが大事なんじゃないかと考えています。

近藤さん:ひとつは映像も空間も、素材や表現方法に固執せずフラットに「良い」と思える感覚を持つことですね。いろんな表現の可能性がある中で、ベストな選択肢を選ばなければいけない。それは必ずしも映像やデジタルじゃない場合ももちろんある。その入り口を間違えないことですね。

もうひとつは全ての答えを提示するのではなく、表現の中に思考を巡らせる余白を残すことですね。作品の内容を正確に伝えたいのであれば、極端な話、鑑賞者一人ずつに言葉で説明すれば良いということになりかねません。そうではなく、受け手に委ねられる部分があることが視覚表現のいいところかなと。説明を加えていくだけじゃなく、引き算していくというか。

ーーそれでは最後に、デジタル表現を用いてこれからどんな「体験」をつくっていきたいですか?

久我さん:小さい頃「魔法少女」に憧れがあって、それが制作の原動力になってるんですよ。例えば映像を映すデバイスがモニターの中だったら「映像」ですけど、それが空間全体をインタラクティブに制御して光らせたり、モーターで動かしたり、風を吹かせてみたりできたら魔法のような体験を作ることができるじゃないですか。メディアアートって仕組みがわからないものほど感動するし感情移入すると思うんです。技術的にもどんどん新しいものを取り入れて、言葉にできない感覚を呼び起こすようなものをつくりたいですね。一方的じゃなく、その人の経験や思い出から引き出すような体験を。

桑名さん:「わからなさ」の度合いにもよりますが、設計と偶然のバランスで言えば、後者が大事になってくるだろうとは思いますね。広告的にわかりやすくするパターン方法もありますが、体験者に委ねるケースは増えていくのではないかと思います。体験者が能動的に動いてしまうような体験をつくっていきたいですね。

青柳さん:僕は「全く新しい体験」というのはなかなか理解されないと思っているんです。久我の言うようにどこか知っている、記憶の片隅にある新しさの方が伝わりやすいし、心を動かすんじゃないかなって。技術で驚かせたいわけじゃなくて、ちょっと心を動かすような体験をつくりたいんですよね。「あっ」と言わせるのではなく「あぁー」と言わせる体験というか。細かなニュアンスですが(笑)。人間のそうした機微に訴えかけるような繊細な体験をつくっていきたいですね。

 

TOKYO MIDTOWN × ARS ELECTRONICA 「未来の学校祭」に博展が企業出展。

六本木の東京ミッドタウンにて2月21日(木)~24日(日)の期間で開催される、東京ミッドタウンとアルスエレクトロニカによる企画「未来の学校祭」(みらいのがっこうさい)に博展が企業出展。“アートやデザインを通じて、学校では教えてくれない未来のことを考える新しい場”をコンセプトに、未来社会をイベント参加者とともに考えていく新しいイベント「未来の学校祭」(みらいのがっこうさい)。その中で博展は「ギリギリ」という全体テーマのもと、私達が常に向き合っている“リアルとデジタルのギリギリの境界”を体験する「センサーエラー」というインスタレーションを行う。

・期間:2019年2月21日(木)〜2019年2月24日(日)
・会場:TOKYO MIDTOWN ガレリア2F
・詳細:https://www.tokyo-midtown.com/jp/event/school_future/
 ※混雑時は先着順により整理券を配布

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