INTERVIEW

だから、夫婦でクリエイター。 vol.01 銭谷侑(コピーライター)× 松永ひろの(アートディレクター)

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新連載「だから、夫婦でクリエイター。」。初回登場のご夫婦はコピーライター・銭谷侑さんとアートディレクター・松永ひろのさん。ふたりはともに電通出身。2017年4月にデザインファーム「the Tandem」を創業し、それぞれの得意技、ことばとデザインの技術を活かしてブランディングや商品・サービス開発の戦略からアウトプットまで、幅広い領域で活動中だ。「新しい表現や格好いい広告を作ることを目的にした会社ではなく、人の幸せにつながるような仕事をしたくて」。妻の松永さんがこんな風に話すと、「仕事をしているというよりも、ふたりの人生そのものを作ってる感覚が近いかもね」と夫の銭谷さん。仕事を通して自分たち自身がまず、幸せであること。その延長線上に、多くの人の人生を豊かにするようなアウトプットがある。“人生発想のものづくり”を尊ぶふたりはいま、どんな未来を思い描いているのか。「だから、夫婦でクリエイター。」のわけを聞いた。


ーー「the Tandem」の設立の経緯から聞かせてください。

銭谷さん:もともと僕らふたりは電通出身。妻は7年、僕は8年間、クリエイティブ・プランニング局に籍を置き、多くのミッションを抱えながら、日々忙しく過ごしていました。新しいクリエイティブを開拓する部署に在籍していたので、商品開発やビジネスデザインなどの新しいチャレンジも多く、やりがいも一入でした。そんな日々を過ごす一方で、より経営や事業に役立つものづくりがしたい。そして人生そのものをつくっていきたいと思うようになったんです。一つの会社に属すのではなく、複数の主体を持ちながら働くと、新しい変化がありそうな予感がして電通を辞めました。今は、いくつかのベンチャー企業でマーケティングや経営に携わりつつ、the Tandemのコピーライター・戦略コンサルタントとしても働く、パラレルキャリアを実践しています。

松永さん:じつは「the Tandem」は、2015年、電通時代にふたりが入籍したタイミングから始めたクリエイティブユニットなんです。独立した今は、the Tandem専属でアートディレクターやイラストレーターとして仕事をしています。じぶんたちの暮らしを大切に、ものづくりを通して人生を良くすることに向き合っています。

銭谷さん:夫婦揃って同時に会社を辞めたのは電通で初めてだったみたい。「なんで辞めるの?」っていろんな人に聞かれたけど、「夫婦の人生を大切にするナンバー1を目指します」なんて言ってたっけ(笑)。不安はあったけど、その気持ち以上に“人生発想のものづくり”に興味があって。

松永さん:言葉にするとそういう感じだね。もともと私の場合、自分の好きなデザインを世の中に送り出すことよりも、売れるものを作りたいとかビジネスとしてマネタイズできるかとか、ビジネス視点でクリエイティブに関わることに興味のあるタイプだったけど、「自分たちの暮らしを大切にした結果生まれるアウトプットって何だろう?」っていうことに興味や関心が増していったことも大きかった。いろいろふたりで考えている時期に『人生フルーツ』っていう映画を観たのも良かったね。

銭谷さん:たしかにそうだね。90歳と87歳の建築家夫婦の暮らしを追ったドキュメンタリーで、このご夫婦の考え方や暮らし方には憧れを抱いたし、共感する部分もたくさんあった。自分たちの庭で育てた野菜や果物で毎日の食事を作り、生活にまつわるものも多く手づくり。四季の移ろいを大切にしながら、一日一日を丁寧に暮らすふたりの姿を見るにつけ、“理想の夫婦”の形を垣間見たね。

松永さん:私たちふたりの場合、ものづくりを通して、人生や社会とどう関わっていけるかを大切にしたい。

銭谷さん:広告業界では、クライアントの課題解決をする仕事が殆どですが、クライアント自身も課題が何なのかが分からなくなっている気がします。だからこそクリエイターが人生に向き合うことで、新たな人生課題を発見でき、新しい仕事をつくっていける、そう考えています。

 

ーー夫婦で経営するデザインファーム「the Tandem」として独立して1年弱。“らしさ”はどんなところにあると思いますか?

銭谷さん:ひとつは、人生発想でものづくりをしていることです。例えば昨年4月に発売した書籍『こどものことばアルバム』。新しい子育て文化を広げたいという思いからスタートし、クラウドファンディングで応援者や協賛企業を募り、プロジェクトをスタートさせました。

松永さん:アイデアの原点は私の母親なんです。私が中学生になったとき、母から、小さい頃に私が言った言葉を15年間も書き留めたノートをプレゼントされたんです。写真のアルバムを見ても思い出せなかった小さい頃の記憶がその言葉たちを読むにつけ、鮮明に蘇ってきました。日常の子どもの言葉を書き留めておくような文化があればいいなと思い、「こどものことばアルバム」の自費出版に至りました。

銭谷さん:夫婦二人で立ち上げた小さなプロジェクトですが、現在は子育てメディアやメーカーも巻き込み、アルバムグッズの全国展開やアワードの開催などに広がっています。こういう仕事は、クライアントのオリエンからは生まれない、人生発想だからこそできた仕事かなと。そして人生発想のものづくりは、クライアントワークでも、大きくアウトプットが変わるんです。依頼された仕事に対してただ打ち返すクリエイティブはしないようにしていて。これが“らしさ”の2つ目ですね。

松永さん:企業や商品、サービスの存在意義を改めて捉え直し、その上でそのブランドのあるべき未来を提案させてもらうことが多いね。この領域は夫が得意なので、私はその一連の流れを近くで見ながらクリエイティブ領域に携わっています。

銭谷さん:セブン-イレブン専売コスメ「ParaDo」のリニューアル案件がまさにそうだったね。
もともとのオリエンはただのデザインリニューアルだったんですが、そこを人生発想で捉え直すことで、ブランドの存在意義から作り直す仕事にしたんです。妻が教えてくれたんですが、女性のポーチってものすごく重いらしいんですよね。そんな女性の人生課題を解決するために、外出先でも持ち運びやすい「お直しコスメ」という新しいコスメジャンルを作ることを提案し、ブランドの存在意義からリニューアルに携わりました。コピーは、あらゆる事業の根幹をつくる技術でもあると思うんです。そしてアートディレクションは、その概念を、世の中で最大限機能させるルールを開発する技術。そのふたつの技術を、夫婦で融合させてる感じというか…。

松永さん:夫はビジョンから理屈で考え、戦略やコピーワークに落としていくタイプで、私はイメージから論理的に考えていくタイプ。二人のアプローチはちがうんだけど「人生を良くする」というところが共通だからか、ほとんど意見が食い違ったことがないんです。考えるアプローチがちがうからこそ、どちらかが悩んでいる時に助言し合ったり、コピーライティングに先行して私がデザインルールを整理し、そこから全体のコンセプトが整理整頓されていくことも少なくないよね。

銭谷さん:二人三脚で頑張っている感じです(笑)

 

ーー夫婦ともにクリエイターのおふたり。一緒に動かすプロジェクトも少なくないと聞きますが、お互いの中で何かルールはありますか?

銭谷さん:毎日楽しく暮らしたい。この気持ちがふたりに共通する部分なので、どうやったら仕事に全力投球しつつそれを実現できるかは、常に考えているよね?

松永さん:その実現のために都度、ルールづくりをしている感じが近いかもね。仕事から離れて話すと、健康的に食事を摂るのは大切!

銭谷さん:電通時代、結婚する前、僕自身まったく食に気を遣っていなかったんです。主食はコンビニか居酒屋。結婚して食べる量は増えたのに体重が10キロ減ったんです。これは妻のおかげですね。あとは食品添加物とか、体に悪いものを摂らなくなりました。

松永さん:野菜をたくさん摂るようになったでしょ?

銭谷さん:そうそう(笑)。食事に気を遣うようになったことで、以前に比べて疲れなくなった。お酒を飲む量も劇的に減りました。その結果、朝から好調に(笑)。あとは……週末はできる限り、休むようになったかな。クリエイティブの仕事って考え始めるとエンドレスじゃないですか? この考え方から少し距離を置いたことで、気持ちをリフレッシュできる時間が増えたと思う。

松永さん:散歩する頻度でいうと、けっこう多い夫婦だと思います(笑)

 

ーー最後に「the Tandem」の今後、ふたりが思い描く未来について聞かせてください。

銭谷さん:クライアントワークでも、the Tandemの自社事業でも、人生を良くするプロダクト開発をしていきたいと思っています。いま興味があるのは衣食住。衣食住に関わる仕事を増やしていきたい。あとは、僕が福祉ベンチャー企業にも属しているので、障害者の課題を活かしたプロダクト事業も立ち上げようと思っています。障害者の視点には、未来へのヒントがたくさん眠っているんです。なかなかクリエイターが携わらない分野でもあるので、チャレンジしてみたい。

松永さん:私はプロダクトデザインを突き詰めてみたい。

売れるものにすることはもちろん大事だけど、それ以上に世の中の概念が変わるとか議論を巻き起こすとか、PR発想でのプロダクトデザインに興味があります。

多くの人を幸せにしたり、自分たちの人生が豊かになるような、そんなプロダクトを作ってみたいな。

銭谷さん:あとは……あまり意識しているわけではないけれど、東京五輪に向け、1つだけでもいいのでヒット商品を作れたらいいな。間近に迫る五輪を前に、いまの時代、新しいキラープロダクトが生まれる土壌が世の中にある気がしていて。自分の子供にオリンピックの記憶を残してもらいたいっていう思いから、数年前から子供を産む人たちが増えてるみたいで。そういう人たちに向け、楽しみながら子育てできるようなグッズ、もしくは子供たち自身が楽しめるグッズを世に送り出せたらハッピーだと思いませんか? じつはいま、頭の中にそのプロダクトのアイデアがあったりします。ここでは内緒にさせてください。

松永さん:私、その話って聞いたことあったかな。楽しみにしてます(笑)。あとはふたりだけで完結するプロジェクトが多いわけではないので、私たちの考え方に共感してくれるクリエイターの方々ともっと密に仕事できたらいいな。多くの出会いに期待しています。

銭谷さん:組織に属していないからこそ、自由にチームを組めるのは面白いよね。僕もこれから多くの出会いに期待したいな。

松永さん:そうだ、そういえば今、夢に興味があって。人生の3分の1、4分の1は睡眠の時間じゃない? この寝ている間を楽しめる仕掛けを作れたら、もっとみんな幸せになれるじゃない? 夢と睡眠をテーマに何かできたら楽しそう!

銭谷さん:おっ、すごい角度からビジネスのヒントがでてきたね(笑)

PROFILE

the Tandem

コピーライター・銭谷侑とアートディレクター・松永ひろの、夫婦で経営する自主提案型のデザインファーム。ともに電通出身。2017年4月、創業。「人生を豊かにすること」「人の幸せにつながること」を大切に、商品・サービス・企業のブランド開発、コミュニケーションプランニングなどを行う。夫の銭谷氏はコピーライター/戦略プランナーとして“ことばの技術”を活かしたブランディング、商品・サービス開発の戦略、妻の松永氏はアートディレクターとして売上やブランドに貢献する機能的なデザインを得意とする。自社によるプロダクトやサービスも展開中。国内外のクリエイティブアワードの受賞歴多数。
http://kengai-copywriter.com/

http://the-tandem.com

    写真・佐野優典 編集/文・紺谷宏之 バナーデザイン・松永ひろの タイトル・銭谷侑

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